宗教・信念別 食事に対する配慮ポイント

国籍にとらわれず、グローバルな規模で人材採用を考えた際に、多文化共生という観点が必要となります。

多文化共生とは、国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくことです。

日本で働く外国人が増える中、宗教・信念上、様々な規範や制限を持つ従業員が働きやすい職場を「宗教的・文化的配慮」の観点からつくる動きが広がっています。

各宗教や信念に対して、食事に対する配慮ポイントをまとめてみました。

ぜひ、職場の食事会や宴のお店、メニューを決める時の参考にしてください。

ベジタリアン

ベジタリアンに該当する人とは?

ベジタリアンは本来、「命を奪う、もしくは、傷つけて得られる食品を食べない人」という意味を持ちます。

宗教上の理由、健康のためにベジタリアンになる人に加え、近年ではアニマルライツ(動物の権利)、環境保全の理由からのためベジタリアンになる人も増えています。

ポイント

ベジタリアンは世界各地にいて宗教の戒律や国の文化によってルールも異なるため、ベジタリアン特有の食事マナーやルールは存在しません。

ベジタリアンは、何を食べるかによって分類されます。

「ヴィーガン」・・・一切の動物性食品(肉類・魚介類・乳製品・卵など)のほか、蜂蜜も食べず、皮革製品・シルク・ウールなどの動物から得られる製品、娯楽等の動物使用も排除している。

「ピュア・ベジタリアン」・・・純粋菜食(完全菜食主義者)

「ラクト・ベジタリアン」・・・植物性食品に加えて乳・乳製品などを食べる。

「ラクト・オボ・ベジタリアン」・・・植物性食品と乳・卵を食べる。牛乳や チーズなどの乳製品のほかに卵も食べるタイプで、欧米のベジタリアンの大半がこのタイプです。

国際ベジタリアン連合では「ラクト・オボ・ベジタリアン」を基本的なベジタリアンと認めています。

ベジタリアンが避ける食材

ベジタリアンが一般に避ける食材
→ 肉全般、魚介類全般、卵

一部のベジタリアンが一般に避ける食材
→ 乳製品、根菜・球根類などの地中の野菜類

    • 乳製品は健康上の理由でベジタリアンとなった人が、避ける傾向が多いようです。
    • 根菜・球根類など地中の野菜類は「ジャガイモ」「にんじん」「しょうが」「にんにく」「サツマイモ」などです。 掘り起こす際に小さな生物を殺傷してしまう恐れがあるため、食べることが禁じられています。


イスラム教

イスラム教徒に該当する人とは?

イスラム教は唯一神「アッラー」を信じる一神教で「コーラン」を聖典としています。偶像による崇拝は禁止されています。

イスラム教徒は世界各地に居住しており、特にアジア、北アフリカ、中東における人数が多いとされています。

ポイント

宗教が生活の土台となっており、食事に規制事項があるため、食材に非常に気を遣うのがイスラム教徒です。

イスラム法(=シャリーア)では食事のマナーも定めていて、「食材」料理に付着する「血液」、 「厨房」「調理器具」が、教義に則ったものかどうかに対してとても敏感です。

どこまで厳密にハラームを避けるかは、宗派や文化、個人によって解釈や方針が異なりますので、直接、本人に確認されることをお勧めします。

ラマダンと呼ばれる断食期間には、日中、水を含めて一切の食事を口にしません。その代わり、日没とともにたくさんの食事を摂取します。

教義で禁じられている食材

「豚」「アルコール」「血液」「宗教上の適切な処理が施されていない肉」

この4つの食材はコーランで食べることを禁じられているものです。

豚以外でも肉は、アッラーに祈りを捧げ、 特殊な屠殺方法を行ったハラル・ミール(ハラル・ミートとも)しか口にしません。

肉そのものだけではなく、「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」「ラード」など豚の肉や骨、油が使われた食材は食べることができません。

アルコールは飲用以外にも、「料理酒」「調味料」(みりんなど)「香り付け」など様々な用途で料理に使われることがありますので、特に注意が必要です。

教義で禁じられているわけではないが嫌悪感を示す食材
「うなぎ」「イカ」「タコ」「貝類」「漬け物などの発酵食品」

これらについては宗教上の教義で禁じられているわけではありませんが、一般的に嫌悪感を示されることが多いので、 料理の食材として扱うことは避けたほうがよい食材です。

ハラル料理とは?

ハラルは、イスラム法において「許可された」「合法的」という意味であり、生活全般に関わる言葉です。イスラムの教義に則って食べることが許可されたものを指し、野菜や果物、大半の魚介類はハラルです。

尚、反対に「禁じられている」と言う意味の言葉が「ハラーム(ハラム)」です。

ハラルやハラムはモノや行動が「神に許されている」のか「禁じられている」のかどうかを示す考え方なので、食事のことだけを示してはいないです。

例えば、嘘をついたり物を盗んだりすることは「ハラム」とされています。

仏教

仏教徒に該当する人とは?

仏教徒は世界各地に居住していますが、その9割以上は中国、日本、タイ、ベトナム、ミャンマー、スリランカ、カンボジア、韓国などでアジアに住んでいます。

ポイント

多くの宗派が存在し、宗派ごとに食に対する意識が異なります。

もともとは、生き物を殺生することを禁じていたため、精進料理が生まれましたが、 現代では肉食をする人も増えています。

僧侶や厳格な仏教徒は、食事そのものを日常の修養の一つとして捉えていることもあります。

一部の宗派が避ける食材

一部の厳格な仏教徒が避ける食材
肉全般、牛肉、五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)

    • 食に関して宗教的な禁止事項があるのは、一部の僧侶、厳格な信徒のみです。
    • 五葷が避けられるのは、臭いが強く修行の妨げになるためという説と、陰陽五行思想に基づくという説があります。
    • 肉そのものだけではなく、「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」「ラード」バター(牛乳の脂肪)」「ラード(豚の脂肪)」 「ヘット(牛の脂肪)」などを 調理時に使わないよう注意が必要です。植物性のもので代用しましょう。

キリスト教

キリスト教徒に該当する人とは?

キリスト教徒は世界各地に居住していますが、特にヨーロッパ、アメリカ大陸に多くの信徒が住んでいます。

ポイント

末日聖徒イエス・キリスト教会(通称モルモン教)、セブンスデー・アドベンチスト教会のように食に関する規制事項を設けている宗派もありますが、 少数派です。

多くの信徒は自由に食事を楽しんでいますので、基本的に、食に関する禁止事項はほとんどないと考えてよいでしょう。

一部の宗派が避ける食材

肉全般、アルコール類、コーヒー、紅茶、お茶、タバコ

    • 上記の食材を避ける宗派は、キリスト教の中でもごく一部です。
    • モルモン教では、アルコール類、コーヒー、紅茶、お茶、タバコの摂取が禁じられています。
    • セブンスデー・アドベンチスト教会では、信者に菜食を勧めています。
    • 肉食も一般的で、キリスト教の伝統的な行事(感謝祭、クリスマス、カーニバルなど)では、七面鳥、羊、魚(タラなど)などを用いた料理が食べられています。


ヒンドゥー教

ヒンドゥー教徒に該当する人とは?

ヒンドゥー教徒は、インドやネパールに多数存在しています。

約9億人の信者がいるとされており、信者数では世界で3番目の宗教です。そのうち8億人はインドの方だそうです。

古代インドにあったバラモン教という宗教が変化して今に至っており、多神教で、神様は何人もいますが、「ヴィシュヌ」「シヴァ」「ブラフマー」の3大神が有名です。

「カースト」といわれる身分制度もこの宗教の教えの中にあります。

ポイント

宗教が生活の土台となっており、食材、食べ方(誰と一緒に食べるか)、食事を食べる時間や時期に対して非常に気を遣うのがヒンドゥー教徒です。

ベジタリアン以外の人と一緒に食事することを嫌う人もいるようです。

また、ヒンドゥー教では不殺生を旨とするので、肉食を避ける人が多数存在します。

穢れに対する意識が強く、 他者から唾液によって穢れが感染すると考えられ、 食器は使い捨てが一番清浄であるという意識を持っています。

家庭で食事することを好む人が多いのは、外食の場合、同じ調理器具で肉を調理した可能性があるからです。

ヒンドゥー教徒が一般に避ける食材?

肉全般、牛、豚、魚介類全般、卵、生もの、五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)

      • 多くのヒンドゥー教徒は、肉全般を避けますが、中には肉食をする人もいます。その場合でも食べる対象は、鶏肉、羊肉、ヤギ肉に限定されます。
      • 牛は神聖な動物として崇拝の対象となっているため、食べることは禁忌とされています。
      • 豚は不浄な動物とみなされ、基本的に食べることはありません。
      • 肉そのものだけではなく、 「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」「バター(牛乳の脂肪)」「ラード(豚の脂肪)」「ヘット(牛の脂肪)」など、出汁や脂肪が入っているものも避けます。

 

宗教や信念は、宗派や文化、個人によって解釈や方針が異なります。

外国人人材を採用する際は、直接、本人に配慮が必要な事項を確認するとよいでしょう。

また、配慮は必要ですが、信仰心や信念を持つ従業員に対し過剰に注意を払い続けることや、腫れ物に触るような扱いは、逆に居心地の悪さを感じさせてしまうこともあります。

日本で働く外国人が増える中、宗教・信念上、様々な規範や制限を持つ従業員が働きやすい職場をつくる「宗教的・文化的配慮」とは、互いの価値観を認め合い、しっかりとコミュニケーションを図り、他の従業員と隔てなく接することと言えるでしょう。

 

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