職場で“参加が暗黙のルール”としていることの落とし穴

外国人人材からすると、日本の職場には、参加するのが暗黙のルールとなっているけど、「仕事なのか?」「何の目的で行われているのか?」戸惑ってしまう慣習があります。

それらの代表は、朝礼飲み会(新年会に忘年会、歓迎会に送別会など)、体操などです。

これら「朝礼」「職場の飲み会」「体操」について質問を受けたときに、実施する目的だけでなく、「その時間は労働時間なのか否か」の説明もしてあげましょう。

労働基準法上の労働時間とは?

2017年に自動車メーカーのスズキが、始業前の体操や朝礼を労働時間として把握するよう労基署から是正勧告を受け、これに基づき、スズキは2016年6月〜2017年2月までの間の未払い分の賃金として、約500人に合計約1000万円を支払いました。

当時のニュースによると、是正勧告を受けた工場では、任意で約5分間の体操を行い、始業後に1~2分の朝礼を実施していたにも関わらず、朝の始業前の体操が「任意参加」ということが伝わっていない部署や、始業前に朝礼を実施していた部署があったそうです。

労働時間の判断基準は、最高裁判所の判例において示されており、この判例では、「労働時間」について、以下のように定義されています。

労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない

抜粋:平成12年3月9日最高裁第一小法廷判決 三菱重工長崎造船所事件

すなわち、ある業務に従事している時間が労働基準法上の労働時間かどうかを判断するには、使用者の指揮命令下に置かれている時間かどうかという点がポイントとなり、これは就業規則等の規定にかかわらず客観的に決定されます。

つまり、労働者の労働時間を計算する際には、単純に就業規則等で規定した就業時間で計算するのではなく、使用者の指揮命令下に置かれている時間かどうかという点を考慮する必要があります。

[労働時間の考え方]
○ 労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たること
○ 例えば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当すること

引用:個性労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

労働時間とされる例
■着替え

作業開始前の着替えの時間について、使用者から事業所内において行うことを義務づけられている場合などは、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価でき、社会通念上必要と認められるものについては労働時間に該当されると判断されます。

■始業前の準備、終業後の片付け
本来の業務の準備作業や後片付けについて、事業所内で行うことが使用者によって義務づけられている場合や、現実に不可欠である場合には、原則として使用者の指揮命令下に置かれたものと評価され、労働基準法上の労働時間に該当すると判断されます。

■手待ち(待機)時間
手待ち時間とは、使用者からの命令があればただちに業務に就くことができる態勢で待機している時間のことをいい、具体的には以下のような時間のことを指します。以下の内容は、過去の裁判の判例や厚生労働省からの通達に基づきます。

店員が顧客を待っている時間
勤務時間中の客の途切れた時などを見計って適宜休憩してよいとされている時間について、いわゆる手待ち時間であって休憩時間ではなく、労働時間に当たると判断されます。

夜間の仮眠時間
「24時間勤務の途中に与えられる連続8時間の「仮眠時間」は、労働からの解放が保障された休憩時間とはいえず、実作業のない時間も含め、全体として使用者の指揮命令下にあるというべきであり、労働基準法上の労働時間に当たる」として、仮眠時間が労働時間であると認められています。

電話番の時間
昼休み中に電話番や来客対応をさせることについて、厚生労働省は「明らかに業務とみなされる」として、労働時間に含まれると示しています。昭23.4.7基収1196号、昭63.3.14基発150号、平11.3.31基発168号

労働基準法では、一定の時間を超えて働く労働者に対して、労働時間の途中に休憩時間を与えなければならないことが定められています。手待ち時間については、それが休憩時間なのか労働時間なのかという点が争点となります。

※三菱重工業長崎造船所事件(最一小判 平12.3.9)、大星ビル管理事件(最一小判 平14.2.28)、大林ファシリティーズ事件(最二小判 平19.10.19)

■勉強会・研修
勉強会や研修に参加している時間についても、労働時間として認められる場合があります。過去の判例では、下記の条件に当てはまる研修の参加は労働時間であると判断されました。八尾自動車興産事件(大阪地判昭58.2.14)

  • 参加が義務付けられている(強制されている)。
  • 表面上は強制ではないが、欠席すると罰則が科せられたり、昇給や賞与の査定に影響するなどの不利益が発生する(事実上の強制)
  • 表面上は強制ではないが、出席しなければ業務に最低限必要な知識やスキルが習得できない(事実上の強制)

日本人が好む「暗黙の了解」は、日本文化の中では通用しやすいかもしれませんが、万国には通じません。
当記事では、「朝礼」「職場の飲み会」「体操」などを例に挙げましたが、会社の慣習となっていることについてもよく説明をして理解してもらいましょう。

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