イスラム教徒の従業員に対する宗教・文化的配慮とは?
国籍にとらわれず、グローバルな規模で人材採用を考えた際に、多文化共生という観点が必要となります。
多文化共生とは、国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくことです。
日本で働く外国人が増える中、宗教上様々な行動規範があるイスラム教徒の従業員が働きやすい職場をつくる動きが広がっています。
職場では、画一的なルールを決めるよりも、イスラム教徒の従業員を自然な形で受け入れ、他の従業員とのバランスを大切にしながら配慮を進めることがポイントのようです。
優秀な人材の確保に外国人人材も視野に入れる必要がある中、今一度、職場でイスラム教徒の従業員を受け入れる際の「宗教的・文化的配慮」について考えてみましょう。
イスラム教とは?
イスラムは1400年前にアラビア半島で始まった教えで、この教えを信じる人々がイスラム教徒(ムスリム)と呼ばれます。
イスラム教徒は、この世に唯一の神(アッラー)を信じて帰依し、神の教えを日々実践して生活する人々です。
彼らにとって、信仰の告白、礼拝、喜捨、断食(ラマダン)、聖地メッカへの巡礼からなる5つの基本行為、および神の教えで定められた行動規範を守ること、食事のつど、神の教えで禁じられた食品や成分を避ける行為は、信仰の実践にあたります。
日々の行動で信仰を表すことが、キリスト教や仏教など他の宗教との違いです。
ムスリムの女性(ムスリマ)の頭を覆っているヒジャブは、言葉としては「覆うもの」という意味です。
「ヒジャブ=ムスリムの女性が頭に巻いている布」として認識されることが多いですが、物理的な布のみを指しているわけではなく、実は心のあり方などを含む包括的な概念であり、信仰心のあらわれでもあり、信仰(宗教的行為)の実践でもあります。
イスラム教徒の習慣
礼拝
礼拝の回数
イスラム教では、厳密には1日5回の礼拝が義務付けられています。
基本は、夜明け前の礼拝、昼の礼拝、午後の礼拝、日の入りの礼拝、夜の礼拝と5回ですが、状況に応じて礼拝の義務は緩和されます。
例えば、旅行中や就業中などの場合、昼と午後の礼拝を1回に合わせることが可能です。
また個々人の違いはあるようですが、1回のお祈りは10分以内に終わります。
イスラム教徒の従業員を受け入れた際は、本人にタイミングや所要時間の確認をしておくとよいでしょう。
礼拝の場所
礼拝は「清潔な場所」であればどこで行ってもOK。
礼拝をすることが目的なので、空いている会議室や部屋など他の空間と仕切られた部屋を用意することが望ましいです。
POINT
礼拝を行う場合、その時間が勤務時間にあたるのか?休憩時間にあたるのか?給与を支払う場合は100%なのか?減給になるのか?
イスラム教徒の従業員・受け入れFAQ
食べ物
2016年に東京入国管理局横浜支局が、収容しているイスラム教徒の男性に、宗教で禁じられている豚肉を誤って提供してしまい、問題になった出来事がありました。
イスラムの教えで「許されている」という意味のアラビア語がハラール(ハラル)【アラビア語: حلال Halāl 】です。
反対に「禁じられている」と言う意味の言葉が「ハラーム(ハラム)」です。
ハラルやハラムはモノや行動が「神に許されている」のか「禁じられている」のかどうかを示す考え方なので、食事のことだけを示してはいないです。
例えば、嘘をついたり物を盗んだりすることは「ハラム」とされています。
禁じられている代表的な食べ物は、アルコール類と豚肉です。
ムスリムにとっては、万が一アルコール類や豚肉を摂取してしまった場合、自身がけがれてしまう感覚に近いそうで、私たちが想像する以上にセンシティブな問題です。
従って、会社の食事会や宴の席で豚肉や飲酒を勧めるのも、ムスリムの人の気持ちを傷つけてしまう行為ですので注意が必要です。
職場での配慮は、社員食堂があれば、ある程度のハラール(豚肉を使用していないなど)の食事メニューを提供したり、メニューに使用肉類の表示を行うことが挙げられます。
尚、どこまで厳密にハラームを避けるかは、宗派や文化、個人によって解釈や方針が異なりますので、直接、本人に確認されることをお勧めします。
断食
イスラム教徒は、毎年約1ヶ月の間、日中の飲食を断ちます。
この1ヶ月のことを「ラマダン(Ramadan)」と呼び、唯一の神であるアッラーへ感謝を捧げます。
ラマダンの期間は、イスラム歴に基づくため、毎年同じ日ではありません。
断食と言っても完全な断食ではなく、1日分の食事は日没から日の出までに摂取し、日中は軽い水分補給で過ごします。
職場での配慮としては、勤務時間内に水分補給を促すなど脱水症状対策が挙げられます。
イスラム教徒の従業員・受け入れFAQ
Q:禁止された食べ物・飲み物は?
食における代表的なハラムは、豚肉やアルコール飲料です。
動物由来・豚由来・動物性など(例:ショートニング・乳化剤など)が入っている食べ物も注意しており、例えば、ラードを使ったパンも注意が必要です。
お酒・アルコール・ワインなども禁じられています。中にはアルコールが微量に含まれる調味料、調味料が含まれる食品を避けるムスリムもいます。
Q:会社の食事会で、他の従業員がお酒を飲み、豚肉を食べる状況は避けるべきか?
あまり気にする必要はないものの、無理やりお酒や豚肉を勧めることは避けてください。
Q:お酒を取り扱うことに関係がある仕事に就かせることは可能か?
イスラム教ではムスリムが酒・アルコールなどを飲んではいけないことだけでなく、製造、加工、販売、配給、提供なども禁じられています。
イスラム教徒に限ったことではないですが、必ず仕事の内容を明確に説明してください。
例えば、調理の仕事の場合、調味料として微量のアルコールの取り扱いが必要な場合、事前にこれが業務遂行に必要な「要件」である旨を伝えてください。その仕事に対応できるか否かは、本人の考えによります。
Q:ラマダン時に何か配慮は必要か?
特段の配慮は不要ですが、勤務時間内に水分補給を促すなど脱水症状対策が挙げられます。
Q:イスラム教徒の授業印が礼拝を行う場合、その時間は勤務時間にあたるのか?休憩時間にあたるのか?
また、礼拝時間について給与を支払う場合は100%なのか減給になるのか?
明確な決まりはありません。
礼拝の時間が勤務時間なのか否かを就業規則にあらかじめ記載し、雇用契約締結時に説明、双方理解・納得したうえで雇用契約を締結し就業開始しましょう。
Q:礼拝場所の設置要件は?
正式には、ウドゥと呼ばれる礼拝の前に身を清めるための設備もありますが、職場においては、礼拝ができることを目的とし、会議室や空いているスペースを提供してください。
他のスペースと仕切られていることがポイントです。
Q:礼拝時間はどの程度?
礼拝時間は10分もかかりません。
Q: (挨拶などで)イスラム教徒の女性に握手を求めてもよいか?
イスラム教では家族以外の異性には肌を見せない、身体接触も避けるという戒律があります。
相手が家族でない限り、異性と握手することを禁じるイスラム教の解釈があり、相手が同性の場合は握手できますが、相手が異性の場合、挨拶や労いであっても相手が握手を求めてこない限り、身体的な接触は避けてください。
Q: イスラム教徒の頭をさわることはNG?
頭は神聖なものだと考えられており、子供の頭であっても人の頭は触ってはいけないものとされています。
まとめ
イスラム教は、同じ宗教であっても、神の教えの実践については、宗派や文化、個人によって解釈や方針が異なります。
イスラム教徒の従業員を採用する際は、直接、本人に配慮が必要な事項を確認し、特に雇用条件に関連する事項は相互で取り決めをしてください。
また、配慮は必要ですが、イスラム教徒の従業員に対し過剰に注意を払い続けることや、腫れ物に触るような扱いは、逆に居心地の悪さを感じさせてしまうこともあります。
宗教上様々な行動規範があるイスラム教徒の従業員が働きやすい職場をつくる「宗教的・文化的配慮」とは、互いの価値観を認め合い、しっかりとコミュニケーションを図り、他の従業員と隔てなく接することと言えるでしょう。
関連記事:
・外国人人材の活用と「メンター制度」
・外国人労働者を雇用するときの手順
・業務上、外国人人材に社用車の運転を依頼することはできるか?
・職場で“参加が暗黙のルール”としていることの落とし穴
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。