ノルウェーから働くために「魚捌き職人」がやってきました・・・
手に職を持った外国人が多く日本にやってきます。しかし、環境ややり方が違うので戸惑うことがあるようです。
今回は、ノルウェー北部のハンメルフエスド市で、魚を包丁でさばいて加工していた若い男性職人が「日本製の包丁」の縁で日本での漁業での就職を目指して、はるばる日本にやってきました。
さあうまくいくでしょうか?
何が問題でしょうか?
ノルウェーの魚事情
ノルウェーは、日本でもおなじみのサバ、ニシン、タラなどを一時加工して輸出しています。日本と同じような魚料理もあり、魚は主に蒸したり焼いたりして食べられています。ノルウェーの魚の加工は、日本と違いかなり大雑把です。すなわち、内臓や頭、ひれ、しっぽなどを取り除く作業だけです。
日本とどこがあるいはどのようなことが違うのでしょうか。
日本での作業は非常に細かいのです。しかも、限られた時間に作業しなければなりません。
どんな仕事がしたいですか?
彼から英語で元気よく答えがかえってきました。「私は漁業のことならなんでもやります」。
これはとてもいいことです。日本にくる目的がはっきりしていて、しかも職種も明確なのは非常に喜ばれます。そんな訳で、私たちはコミュニケーションの日本語だけが課題だろうと当初は思っていました。
彼はノルウェーでは、ノルウェー語(ブークモール)と英語を使っていました。デンマーク語、ノルウェー語(ブークモール)、スウェーデン語は、見た目は良く似ていますが発音が違います。
外国人のみなさん、「英語」が話せて、書けるというのは日本で働いたり、住む場合には強みですよ。さらに、日本語をマスターしてから日本にきてくださいね。
当外国人支援室の対応
彼の日本語のレベルは1以下で、ほとんど日本語は話せません。これでは、残念ながらいくら元気でも仕事に就くことはできません。早速、最初の1週間で日本語の入門と勉強の仕方を彼に教えた。彼は、「ひらがな教室」、「漢字入門教室」、「漢字習得教室」の3つのコースを3ケ月かけて必死で勉強したようです。
3ケ月後彼の日本語レベルをチェックした結果、レベル3.5。なんとか仕事ができるレベルになりました。
仕事先でも継続して日本語を勉強するように伝えました。
日本語で言うと「手先の器用さ」が求められた!!
さて、彼の就職先では、朝、浜から上がってきた魚を一匹ずつ解体して捌く作業を担当しました。ゆっくりと動くベルトコンベアの上の魚を手で取り上げて、まな板の上で、内臓、骨、頭、ひれ、しっぽなどを取り除く作業です。そして、得られたその大きな身を「適切な大きさ」に包丁でバランスよく切断するのです。
切られた魚の身は、みんな同じような形、大きさ、重さでなければなりません。これを手際よく限られた時間内に早く魚を捌かなければならないのです。
これが、日本が世界に誇る「品質」であり、「標準化」なのです。
しかしながら、彼は3ケ月経っても切った身の「品質」をどうしても確保できなかったのです。
彼は、例えばサバの身を日本流の上手に切ることができなかったのです。
ノルウェーでの粗い魚の粗いカットは日本では通用しないのです。マネーにならないのです。
そして、ついにその職場の責任者から電話がありました。
「残念ですが、彼はこの作業には向いていないようです。これ以上彼をおいて置けません。」
ピンチはチャンス。先ずは「現場」をよく見ろ!
案件が当市の管轄外になるので、やむなく休日に車を3時間飛ばして、ボランテイア指導しました。
現地のラインで作業している彼の姿と出来上がった魚の身を見て、これはすぐに目標未達であることが判明しました。これからどうしたらいいのでしょうか。なにか良い方策はないのでしょうか。
もう一度彼に「ライン外」で時間に縛られずにゆっくりと作業してもらいました。なんと立派な形状に魚がちゃんと切断されているではないですか。あ! 彼には時間が問題だったのです。
そこで、彼には「自信を持って作業しなさい」と指示しました。精神的な自立を促しました。
スカーレットオハラのいう「明日は明日の風が吹く」のです。
人間は考える葦なのです。もっともっとどうしたら解決できるか考えなさい。
現場責任者との意見交換
日本の高齢化からの現状からして、労働を外国人に頼らざる状況が今後も増えていきます。今回のようなことは、今後もあり得るので対応策を充分考えるように要請しました。
彼は時間さえあれば、慌てず落ち着いて作業すれば、ちゃんとした高品質の魚の切り身がつくれのではないか。なんとかならないのか!
よく考えて知恵を出しなさい。今後もこのようなことはあり得る。3ケ月してだめだったら、その都度送り返すのですか。もっと粘ることはできないのですか。
人を人と思わないとだめですよ。
現場のある事業所の反省と決意
(1)ラインスピードを半分にした
3ケ月間に限定して思い切ってラインスピードを半分にしたところ、彼の魚の切り身が徐々に合格点に到達するようになりました。
(2)作業マニュアルなどの標準化
作業マニュアル、作業標準書、手順書、基準書、工程書がなかったので、英語と日本語の対訳式を彼に作成させました。
(3)受け入れ計画の策定
3ケ月間かけて、魚捌き作業以外の全工程を彼に経験させました(船から作業場までの運送、魚の分別、ライン用集魚、切り身収集と検査、箱詰め、ラベル貼り、保冷所への運搬、ラインの清掃など)。
予想もしない彼の使い道
それから数年が過ぎたころ、彼に、東南アジアへ「魚のさばき技術の品質」で指導にいく機会が与えられました。これは言葉ができるからでした。
ノルウェーで取った魚を一旦東南アジアに持っていき、そこで加工してから、日本にきてスーパーなどに魚の切り身などが並ぶという構想です。
また、彼が、魚を捌いて捨てる魚の残骸はそれまで廃棄物として全部捨てていましたが、これを捨てずに加工して、家畜の餌や肥料に転換して有効活用するという提案をしました。
これは魚のリサイクルです。
考えた彼も素晴らしいですが、それを採用して実行する企業も素晴らしいです。
マネーの件
始めの3年は彼の給与は当時の最低賃金850円の時給でしたが、その後1500円を経て、今では数1000円と聞いています。
人とは判らないものである。不思議なものである。
おわりに
このようにして、彼は事業所の協力を得ながら自分の居場所を確立したのです。
大したものだ!
今では、この事業所に外国人が50人近く働いていると聞いています。
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