”私はデザイナー” 漆器のデザインをやりたいです

手に職を持った外国人が来日して、定職につくケースが数多くあり、全体的に歓迎する方向にあります。

今回は、日本人から見ると「イギリス人」と言えるかもしれませんが、正確にはダブリンに生まれ育ったアイルランド人の人生を紹介します。

彼女の性格は海賊の末裔だと笑って話すおっとりとした若い女性です。

地元の普通高校を卒業したのですが、美術クラブでのデザイン活動が忘れられず、デザインの専門学校で2年間勉強しました。そして、「東洋の漆器」に「西洋のデザイン」を盛り込みたいという一心で日本にやってきました。

日本語の勉強はまったくしていません。

人とのコミュニケーションはもっぱら英語です。英語が判る日本人ならいいのですが、さあ大変なことになりました。

性格があっけらかんとしているところが救いです。

まったく日本語が分からないのに、すばらしい才能の持ち主でもあったのです。

アイルランドもイギリスも、日本と同じ島国です。

共通しているのは、島には有用となる原材料はありません。日本は原材料を仕入れて加工して、製品の形で輸出して外貨を稼いできたのです。「漆器」もその一つと言えます。

この漆器は「伝統工芸品」に入ります。

アイルランドやイギリスは「知恵」を出し合って輸出してきたのでしょう。今でもその名残を知ることができます。

伝統工芸とは

伝統工芸品は日本の法律で下記のように規制されています。

  1. 伝統工芸品は、私たちの日常生活で使われるものであることです。素材・色・紋様・形は日本人の生活様式と深く関わりながら今日に継承されています。
  2. 製造過程の主要な部分が手作りであること。
  3. 伝統的技術・技法によって製造する。
  4. 伝統的な原材料を使用している。

    日本の伝統工芸の衰退と危機

日本が誇る伝統工芸やその文化は、明治維新と第二次世界大戦後に西洋化の波を受けて大きく縮小してきました。手作業が多いため、職人は手先の器用さが求められます。職人が高齢化したため、担い手不足が目立ち、深刻化してきました。そこで、外国人の支援を求めたのです。

彼女への最初の質問!!

私の質問;日本にきて何をするのですか? どんな職業に就くのですか?

彼女の答え;私は生活品のデザイナーです。木製の漆器の世界に西洋のデザインの概念を取り入れたいと思います。

私の答え;伝統工芸品のデザインですか。うわーそれは大変だ! いくつかの関門をクリアしていかないといけないですよ。

関門1;手先の器用さ(独特の手作業に対応できるか)

考えられるデザインの画像を紙とかITの媒体上で目に見える形にするのですが、それを一度試作品(プロトタイプ)を作って実際につくれるかどうか確認する必要があります。

もちろんベテランの職人さんも一部手伝ってくれますが、主体はあくまでもあなたです。そうしないと本当にその漆器が適切か、日本人に受け入れられるか判断できないからです。

全行程を一人で作業してプロトタイプを作ります。それで、いろいろな手作業に対しての手先の器用さが求められます。これは、実際にやって見ないと確認できません。人によっては数年かかる場合も少なくありません。

とにかく工程が長いことにびっくりするでしょう。もうやるしかありません。一番難しいのは両手別機能使いの場合です。すなわち、左手と右手は別の作業をすることです。足も別の作業をしています。これは日本人でも、結構きつい作業です。できない人も数多くいます。

彼女の場合は、幸いにして1年間で全行程を無事修得できました。手先の器用さがあったのです。

よかったですね。もちろん、できない工程や難しい作業があれば、組織全体での対応も考えますからご安心ください。ただし、余裕があればの話ですが。

手先の器用さに加えて、一番重要なのは漆器の世界は職人が作っていることを実際に体験して納得することにあります。新しいデザインの世界が職人の心を動かせるかどうかが、成功のすべてなのです。

漆器ができるまでの製造工程

関門2;高度な日本語やコミュニケーションが要求されることがある。あるいは必ず要求される。

普段の生活では簡単な初歩的な日本語が話せたり、あるいは聞き取れたりするだけで充分。この程度の会話やコミュニケーションならすぐ修得できるのです。

しかし、少し突っ込んだ話し合いや提案などをしようとしたら、日本の小学生が習う漢字の読み書きぐらいは自由自在にできないと難しいことが多いです。

特に、漆器の職人の世界で認められて生きていくのは中学校卒業レベルの漢字能力が求められます。

彼女の日本語力をチェックしたところ、簡単な会話すらできないことが判明しました。すなわち、レベル0なのです。

ビジネスライクになると、レベル4以上は必要。

すなわち、小学校6年間で習う約1026種類の漢字の読み書きに加え、「学習指導要領」に基ずく中学校漢字1110字を学習しなければなりません。

それで、当外国人支援室は、「ひらがな教室」、「漢字入門教室」、「漢字習得教室」で小学レベルの漢字をマスター後、「中等レベル漢字教室」で日本語をきっちり修得して、赴任地へ行くように勧めました。

漆器の赴任地では、日本語のマニュアルや作業手順書などが不十分で、見よう見まねで作業修得しなければならない環境であることが予想されたからです。

さらに、支援室は、従来ボランテイア同様の講師への報酬を1コマ(1.5時間)750円から1500円にアップし、教員経験者を集め、体制固めを行いました。

彼女は4つの教室を6ケ月かけて日本語の研修を無事終了して、新天地である漆器の里へと旅立っていきました。

関門3;アレルギー耐性

漆器の工程は漆や生木や細かい粉じんの多い作業になりますから、漆などの特定成分や臭いやガスによりアレルギーやジンマシンの影響で顔や手足に水膨れや赤い発疹などが出て、痒くなったり汁が出たりします。

通常3ケ月ほどで耐性(免疫)ができて、半年経てばもう大丈夫です。

人によって影響の度合いが様々で、特に若い女性は注意した方がいいでしょう。

彼女の場合は、持ち前のバイキング魂で蹴散らしてクリアできたようです。

 

このようにして、彼女は漆器の里で最初の1年で自分で作成したデザインの漆器の製作を全部自分で行いました。

2年目からは、漆器のデザインの方向性を伝統デザインのバリエーション及び既存の東洋風に西洋の要素を少し盛り込んだデザインを有する漆器で、県の展示会で奨励賞を受賞するなどの活躍をしました。

それよりも、漆器製作のマニュアルや標準書などを日本語と英語の対訳版を作成し、従業員から感謝されたそうです。

おわりに

このようにして、彼女は5年間日本で漆器のデザイナーとして元気に働いたようです。

外国人も少しずつ増えてきました。

今は、アイルランドのお母さんの病気見舞いに一時帰国しています。

近いうちにまた戻ってくるでしょう。

 

★ 漆器ができるまでの製造工程
漆器の製造には大きく分けて、木地作り・下地塗り・中塗り・仕上げ塗りの4つの工程があります。

  1. 木地作りの作業
    ・材料選び:その商品に合った材料を選びます。
    ・寸法切り:商品のサイズに材料を切ります。
    ・細工:線引きなどや細かい部品付けを行います。
    ・組み立て:木取りされた材料を木工用ボンドなどで組み立てていきます。

・木地研磨:組み立てられた商品をきれいに磨きます。

  1. 下地塗り
    ・乾燥:木の目止めをして乾燥させます。
    ・木地研磨:もう一度全体を磨きます。

・下地乾燥:もう一度下地を塗って乾燥させます。
・下地研磨:さらに全体を磨きます。

  1. 中塗り
    ・錆び付け:木地の傷やへこみを特殊なパテで埋め研磨して平らにします。

・乾燥:全体を塗り乾燥させます。
・乾燥:さらに全体を塗り乾燥させます。
・研磨:さらに全体を研磨します。

  1. 仕上げ塗り
    ・拭き:中塗りを終えて研磨商品をきれいに拭きます。
    ・塗り:仕上げ塗りをします。
    ・乾燥:漆が乾くまで乾燥させ、完成です。

このように職人の手で1つ1つ丁寧に作り上げていくのが、漆器です。

 

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